子育ての知恵ぶろぐ 第480回 「叱らない子育て」は子どもを幸せにするのか

「叱らない子育て」は子どもを幸せにするのか―データが示す
“叱られ慣れていない子”のその後

今回は、「ほめる子育て」全盛の
現代において改めて見直したい、
叱ることの意味について、
研究データを交えてお伝えいたします。

■ 職場で顕在化する
「叱られ慣れていない世代」

「業務上のミスを指摘されたことを
きっかけに退職する」

「自身に非があると認識していても、
注意されると感情的に
反発してしまう」

―こうした事例は、
近年多くの企業現場で
報告されています。

日本の子ども・若者の
自己肯定感が欧米諸国と比較して
低い水準にあることが
指摘されて久しく、1990年代以降、
その改善策として
「ほめる子育て・ほめる教育」
が広く推奨されてきました。

あわせて児童虐待防止への
社会的関心の高まりも背景となり、
本来子どもの社会性を育むはずの、
愛情に基づいた適切な叱責までもが
避けられる傾向が強まっています。

しかし、叱らずほめて育てることが、
子どもの自己肯定感を真に高め、
将来の適応力につながっているので
しょうか。

■ 「指摘=攻撃」という
受け止め方

叱られる経験に乏しいまま
成長すると、注意や指摘を
「行動を修正する機会」
ではなく、
「自分自身への攻撃」
として受け止めてしまう傾向が
生じやすくなるとされています。

理性では自身の非を理解していても、
感情面での反発が先立ち、
指摘を建設的に活用することが
困難になるのです。

この傾向は、調査データにも
裏付けられています。

20代から50代の会社員700名を
対象とした調査によれば、
「年長者からの助言を
うっとうしく感じる」
と回答した割合は20代において
とくに高く、3割を超える結果と
なりました。

また、
「他者からの批判に対し、
その内容の正否にかかわらず
強い不快感を覚える」
と回答した割合は、
20代で45%に達しています。

本来最も助言を必要とする
若年層において、指摘への反発が
強く表れているという点は、
見過ごせない課題といえます。

■ ほめ方によって分かれる、
挑戦への姿勢
―心理学実験が示す知見

それでは、叱らず
ほめて育てることで、
自己肯定感は確実に向上するので
しょうか。

この問いに示唆を与える研究として、
心理学者キャロル・ミューラー
およびキャロル・ドゥウェック
による実験があります。

同実験では、
10歳から12歳の子どもたちに
パズル形式のテストを実施し、
全員に良好な成績であったことを
伝えたうえで、成績の理由づけを
以下の3条件に分けて提示しました。

・条件1:能力への言及
(「頭の良さの証明である」)

・条件2:理由への言及なし
(対照群)

・条件3:努力への言及
(「よく頑張った結果である」)

その後、子どもたちに
「確実に解ける易しい課題」と
「挑戦しがいのある難しい課題」
のいずれかを選択させたところ、
条件間で顕著な差異が
確認されました。

能力を称賛された子どもの67%が
易しい課題を選択した一方、
努力を称賛された子どもでは
92%が難しい課題を選択した
のです。
対照群はほぼ半々の結果と
なりました。

この結果は、能力への称賛が
「期待を裏切りたくない」という
防衛的な心理を生み、
失敗を回避する行動につながる一方、
努力への称賛は結果ではなく
姿勢そのものへの評価であるため、
失敗のリスクを恐れず挑戦する行動を
促すことを示しています。

■ 「一時的な高揚感」と
「安定した自己肯定感」の違い

ここで重要な点は、
ほめられることによって生じる
一時的な気分の高揚と、
自己肯定感そのものとは、
性質が異なるという点です。

本来、安定した自己肯定感とは、
ほめられれば上昇し、
叱責によって低下するといった、
その都度変動するものでは
ありません。

むしろ、
多少の指摘や失敗によっても
揺らぐことのない、
安定した自己認識の基盤を指します。

自己肯定感が高い人は、
叱責を受けて一時的に
落ち込んだとしても、
速やかに回復し、
自身へのポジティブな認識を
維持することができます。

裏を返せば、
「叱責からの回復」という経験を
積んでいない子どもは、
称賛による気分の高揚は
経験していても、
安定した自己肯定感の基盤そのものは
十分に育っていない可能性が
考えられます。

■ ご家庭での実践に向けて

以上を踏まえ、日々の子育てにおいて
意識いただきたい点を3点に
まとめます。

1.正当な理由に基づく叱責・注意を
過度に避けないこと

愛情に基づく適切な叱り方は、
子どもが将来、指摘や助言を
建設的に受け止める力の基盤と
なります。

2.称賛の対象を「能力」ではなく
「努力・過程」に置くこと

「頭が良い」「才能がある」という
結果・能力への称賛ではなく、
「よく取り組んだ」
「工夫が見られた」という
過程への称賛が、
挑戦する姿勢を育みます。

3.叱責後の「回復」の経験を
共に積むこと

叱ったあとに
適切なフォローを行い、
「次に活かせばよい」という
見通しを共有しながら
気持ちの回復を経験させることが、
安定した自己肯定感の形成に
つながります。

「ほめる子育て」自体を
否定するものではありません。

重要なのは称賛と叱責の
バランスであり、
子どもが指摘や失敗を
「攻撃」としてではなく
「成長の契機」として
受け止められる土台を、
日々の関わりの中で
育んでいくことにあります。

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